SONYは「会社設立の目的」を見直すべきだ

本日の題は、日本を代表する情報家電メーカー「SONY」についてです。
この会社は、いままさに「凋落」の時期にあります。
ただの1消費者にしかすぎない私ではありますが、
もう一度復活して世界を席巻してほしい思いもあって、今回取り上げたいと思います。


SONYの現在

現在、ソニーは危機的状況にあります。
単純にお金の話をすれば、2013年度 第3 4半期(FY2013 3Q)は

総売り上げ:2兆4千億円 (前年比+23.9%)
税引前利益:898億円 (前年比+205%)

です。ここだけ見ると、前年にくらべると調子が良いように見えます。しかし、第三者の評価としての指標から、ソニーはすでに魅力的ではないと判断されています。


たとえば格付け会社ムーディーズによる格付けは、「Ba1」であり、いわゆる投機的水準(お金を投資しても、ラッキーだったらうまく回収できるかもね)という状態になっています。


また、株価において、その会社が新しいものを生み出せる、と市場から期待されているという指標である「PBR」も1倍を割っており、新しいものは生み出せない、と判断されていると言わざるを得ません。
(PBRがなにかわからないかたは調べてみてください)


「新しいものを生み出す力がない」、そう外部から見られているのがソニーであり、実際の製品を見ていても、そのように感じます。


PlayStation4ソニーの救世主なのか?

PlayStation4が好調であり、これがSONY復活の兆しなのでは、とみる向きもありますが、私は残念ながらそうではない、とおもいます。


ゲーム事業はたしかにSONYの売り上げにおいてある程度ありますが、2012年度の数字でいうと、グループ全体における割合は約11%に過ぎず、金額ベースでいえばグループ全体の売り上げ6兆4932億円に対して、7300億円程度です。これは映画、金融と同程度の売り上げです。


そして、これが将来ソニーの屋台骨となるぐらいまで成長する余地があるのであれば期待も持てるのですが、PlayStationが主戦場としている据置型ゲーム機の市場規模は全世界で約4兆3,409億円(2012年、Gartner調べ)ほどです。これはソフトも含んだ数字です。


このすべてをソニーがとったとして、ゲーム単体でソニーを支えられるかというと、いまの規模には2兆円強も足りません。


またこの数字はソフトも含めた金額です。実際には市場の5割をソニーの売り上げとすることさえ難しいのではないでしょうか。


つまり、ゲームで世界を席巻しても、「SONY」を支えることは難しい、そう思うのです。


■じゃあほかの事業に有望なものがあるのか
いわゆるエレキ事業において、ゲーム以外に目を向けてみても、テレビ、オーディオ、分社化が決まったPC、BtoCのプロダクトのほとんどは「コモディティ」、つまりどんな会社が作ってもおなじようなものができてしまい、製品に競争力を持たせることが難しい状態に陥っています。


スマートフォンタブレット、これらはまだ市場として成長の余地はあると思いますが、いずれコモディティ化することは目に見えていると思います。


つまり、BtoCにおいては、ソニーはいま成長を期待できるカードがない、どん詰まりの状態であるといっても過言ではないと思います。


あえてBtoCといいましたが、BtoBにおいては、実はソニーCMOSイメージセンサーというデジタルカメラのキモである受光センサー部分で世界トップシェアです。AppleもこのSONYCMOSセンサーiPhoneに使っているほどです。


ただ、ビジネスとしてはこれはぜひ続けてトップシェアを獲得していくべきものだとおもうのですが、SONYという会社のアイデンティティはやはりBtoCにあると思うのです。
一般消費者にむけて、素晴らしいプロダクトを供給しつづけたからこそ、いまのような惨状になっても、まだブランド価値は残存しているとおもうのです。


そして、創業者たちは「面白いかどうか」を商品開発の一つの軸としていたという話はよく見聞きしますが、これはやはりBtoCの会社であるからこそなのだと思います。BtoBの会社で「面白いかどうか」を突き詰めても、BtoBの市場で求められるものとはちょっと違ったものができてしまうと思うのです。


SONYの「設立趣意書」
SONYは昔はとても輝いていました。
常に世界の先を一歩行っていたSONYはもう戻ってこないのでしょうか?


SONYには、有名な「設立趣意書」があります。
その一節に、「会社設立の目的」があり、それは以下のようなことが書いてあります。


一、 真面目なる技術者の技能を、最高度に発揮せしむべき自由闊達にして愉快なる理想工場の建設


一、 日本再建、文化向上に対する技術面、生産面よりの活発なる活動


一、 戦時中、各方面に非常に進歩したる技術の国民生活内への即事応用


一、 諸大学、研究所等の研究成果のうち、最も国民生活に応用価値を有する優秀なるものの迅速なる製品、商品化


一、 無線通信機類の日常生活への浸透化、並びに家庭電化の促進


一、 戦災通信網の復旧作業に対する積極的参加、並びに必要なる技術の提供


一、 新時代にふさわしき優秀ラヂオセットの製作・普及、並びにラヂオサービスの徹底化


一、 国民科学知識の実際的啓蒙活動


これを見ると、いかに戦後の日本を、技術、特に通信の面から復興していくことを目的としていることがわかります。時代背景を色濃く反映していますね。


よくSONYの「設立趣意書」で引き合いにだされるのは、一番最初の「真面目なる技術者の技能を、最高度に発揮せしむべき自由闊達にして愉快なる理想工場の建設」ですね。
また、「設立趣意書」には「経営方針」など、ほかの節もありますが、今回は割愛します。


SONYは「会社設立の目的」を再確認したほうがよい
私はこの「設立趣意書」を今だからこそ見直すべきだと思うのです。
ありがたいものだと拝んでいるだけではだめだと思うのです。
そして、まずは「会社設立の目的」を見直すべきだと思うのです。


たしかに、こんなものは古いし、ただの言葉の羅列だから、必要のないものだ、という意見もあるかもしれません。
しかし、このぐらい具体性をもった目的が、やはりトランジスタラジオにつながり、ウォークマンにつながっていったのではないでしょうか。


丁寧にいうと、会社設立の目的には、見直すべきところと、生かすべきところがあると思います。
見直すべきところは、たとえば「日本再建、文化向上に対する技術面、生産面よりの活発なる活動」や、
「戦時中、各方面に非常に進歩したる技術の国民生活内への即事応用」、「戦災通信網の復旧作業に対する積極的参加、並びに必要なる技術の提供」などです。これらは、戦後という時代だからこそのもので、今の時代にまったくマッチしていません。


ですが、その一方でいまの時代にも通じるエッセンスもあると思うのです。
「無線通信機類の日常生活への浸透化、並びに家庭電化の促進」は、
今でいえばインターネットへの対応のことに他ならないと思います。
SONYはその会社の目的からして、設立時点から通信を重要視する、
ある意味ネットワークを志向していた会社であったのではないでしょうか?


また、「新時代にふさわしき優秀ラヂオセットの製作・普及、並びにラヂオサービスの徹底化」は、
今でいえば、AppleiPodにほかなりません。ただ、ここに「サービスの徹底化」と記載されていますが、これはアフターサービスのことを言っているようで、コンテンツの提供のことではないようです。


なお、当然なのですが、「コンテンツ」のことはどこにも書いていません。
これが、いまもなおSONYがコンテンツを使ってうまくビジネスができていないことにつながっているような気がしてなりません。


さらに、もう一つおもうのは、歴史的にみて、SONYはエンターテイメントを提供することを行ってきていて、それが会社のアイデンティティになっていると思います。ですが、そのようなことが会社設立の目的には一切記載がありません。


上記を踏まえ、おこがましくも私がいまソニーの社長であったとしたら、この「会社設立の目的」を見直し、
新しく宣言することから始めたいと思います。そして、それは以下のようなものになると思います。


「新 会社設立の目的」


一、 真面目なる技術者の技能を、最高度に発揮せしむべき自由闊達にして愉快なる理想工場の建設


一、 感受性豊かなるアーティストの技能を、最高度に発揮せしむべき自由闊達にして愉快なる総合コンテンツブランドの創立


一、 世界中のいつでもどこでも最高のコンテンツにアクセスでき、世界の誰もが楽しむことができる、新時代にふさわしき、ネットワーク・ハードウェア・ソフトウェアからなるサービスの実現と継続的な提供


一、 全世界の諸大学、研究所、もしくはオープンイノベーション等から得られる研究成果のうち、最も世界市民に応用価値を有する優秀なるものの迅速なる製品、商品化


一、 経済的不遇にある世界各国の建設、文化向上に対する技術面、生産面よりの活発なる活動


一、 世界市民の科学知識の実際的啓蒙活動


と、勝手に書いてみました(笑)。
ポイントとしては、ハードだけではなく、ソフト、コンテンツも含めていること、また
現代的な意味でのサービスを取り上げていること、
また「日本」だけではなく、「世界」のために、としていること、
さらには大学や企業の研究所だけでなく、オープンイノベーションのような開いたイノベーションの体系を取り込もうとしているところでしょうか。


特に、3つ目の目的について補足しますと、「最高のコンテンツ」は、具体的にはハイレゾリューションの音楽・映像をいっています。さらには今まで人類は生み出してきた傑作とされるものすべてを網羅することも含んでいます。
そしてそれに「いつでもどこでも」アクセスするには、無線ブロードバンドが世界中のどこでも使えるよう、提供する必要があります。そして、ハイレゾリューションの音・映像を表現することのできる「ハードウェア」、そしてそれらをストレスなく自然に扱うことのできる「ソフトウェア」が必須です。


このような「コンテンツ」、「ネットワーク」、「ハードウェア」、「ソフトウェア」を提供すること、これがSONYの目指すべき姿だとおもうのです。すでにそんなものはすべてもっているではないか、そんなことはわかっている、という方もいらっしゃるかもしれません。


しかし、これらが有機的に「統合」されているとは言えないと思います。
問題は「統合」にあるのだとおもいます。これがSONYの大きな問題の一つだと思います。


そして、これらの統合について、Aplleは一歩も2歩も先をいっています。
しかし、ネットワーク、コンテンツの統合という観点では、まだまだ追いつける余地があるとおもうのです。


この4つのファクターを見事に統合したとき、SONYには次の世界が見えるのではないでしょうか。


と、今日のテーマはかなり壮大でした。
ここまで読んでくれたかた、ありがとうございました。
まだ描き切れていない部分もたくさんありますが、それはまた今度の機会に。